三食昼寝ブログ

脳梗塞の母/精神不安の嫁のリハビリを経験。それでも楽しく生きる三食昼寝ブログを書いていきます。仕事/人付き合い/絵を描く/食事/猫/三食昼寝ブログが大好きです。

不安をリハビリする【愉快な母の人生】②騒ぐという漢字と感じ

母視点で書いてみました。

【早期リハビリの効果】

夫は障害福祉センターの言語聴覚士や作業・理学療法士に相談に行った。

言語聴覚士(ST)のアドバイス

「リハビリはSTなしでも、始めたほうがいいでしょう。難しい内容の本は避け、短い童話がオススメです。童謡も、効果的です。」

童話に童謡か、なるほど。幼子のように、はじめから順を追って練習しよう。

看護師に、小児科から本を借りてもらった。 星野富弘さんの詩や、かちかち山などの童話だ。 黙っていれば感じないが、ひと言でも読みはじめると息苦しい。

大声は出せないが、か細い声で童謡を歌うと、一本調子の超スローな歌い方になる。

舌は、山椒を噛んだみたいに舌先が痺れっぱなしだ。だから、しょっちゅう口の中を噛んでしまったり、口元からヨダレが漏れる。だから舌の動きを良くしようと、毎日ガムを差し入れてもらった。

作業療法士(OT)のアドバイス

「グー、チョキ、パーと、ゆっくり指を動かしてください。ひらがなを書くときは、鉛筆よりも太いサインペンを使い、小学生用の升目の大きいノートに書くといいでしょう。」

ペンは握れても、手に力が入らないのでイトミミズが這ったような字だ。 たまたま発症の直前に申し込んだボールペン字の通信講座が届いたので、すぐに書字の練習を始めた。

すると同室の患者は「大変ですね。でも大丈夫。あなたは若いから、きっと良くなりますよ。私は80歳を過ぎてから毎日、体操をしているの。ホラ、手首もだいぶ柔らかいでしょ?手と脳は繋がっているからね」と教えてくれた。 なるほど、手先を使うといいのか。 すぐに家にある折り紙で毎日、鶴を折ることにした。

理学療法士(PT)のアドバイス

横になるとマヒ足がピクピク痙攣する。

「状態を見ないので分からないが、足の指だけで動かすといいですね。床にタオルを置いて、足の指でそのタオルを引き寄せてください。」

リハビリは早い時期ほど効果的だから直接、専門家の指導を受けるようにと療法士たちは口をそろえた。

私はアドバイスを参考にして、発症から1週間を待たずにリハビリを始めた。 点滴をつけたままベッドの上で、朝から晩まで独自のリハビリメニューを繰り返す。 外はどんよりと雲に覆われて、街の喧騒も何もかも私の病室には届かないから、一人でリハビリするには好都合だった。

【転院したい】

脳梗塞の発症から1週間が過ぎた。

「退院後はここで治療をしながら、別の病院へリハビリに通ったらどうですか」と主治医に勧められた。

しかし私の体調で2箇所の通院はきつい。

夫がいろいろ調べてみたら、STの不足で大きな病院でも言語療法ができるとは限らない。運良く言語療法ができても、順番待ちの患者が多いので月に数回通う程度になるようだ。

だから夫は主治医に相談した。

「病状が落ち着いたら直ぐにリハビリを始めたいので、病院を紹介してください。できれば、患者本人が自宅から通える所だと助かります。MRIがあり、言語療法士や作業、理学療法士も揃っていると安心できます。できたら、この病院と連携している所だといいのですが…」

夫から主治医に相談してから数日後。 ようやく病院内のメディカル・ソーシャルワーカー(MSW)を紹介された。 病院に勤務するMSWは、医師と患者・家族の間で話し合いを進める。そして患者や家族の要望を聞いて、必要なら情報を提供して段取りを整えてくれる。

まずMSWに頼んで、受け入れてくれる病院探しを始めた。

すべては時間との戦いだ。 夫は病院側と話し合い、近くの都立病院を第一候補に選んだ。MSWは病室にきて「今から病院に予約診療の電話を入れますが、ご都合を聞かせてください。」

待ちくたびれた私は、病院から外出許可をもらうとリハビリ科にすっ飛んで行った。 でも、即入院とはならない。

「…先生…助けてください…仕事が私を…待ってます…どうか…」と、私はロレツがまわらない口でポツリポツリとメモを読んだ。 リハビリ医は、「ちょうどベッドが一つ空いたばかりだ」とつぶやいた。 このチャンスを逃してなるものか!

私は2週間の予定で空きベッドを手に入れた。専門家の特訓を2週間も受ければ、症状はマシになるだろうと思った。

早速入院の手続きをすませると、今いる病院に戻った。 病院では「おめでとうございます。いよいよリハビリですね。ラッキーですね。」と、主治医も看護師も喜んでくれた。私は努力が報われた気がした。

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【リハビリ病棟に転院】

脳梗塞を発症して3週間後、私は夫に付き添われて都立病院に転院した。

あと少し、たった2週間の辛抱よ!これで苦しかった生活からサヨナラだ!と、はやる心を抑えるのに一苦労した。

だが、入院してみるとリハビリ病棟のイメージはずいぶん違っていた。

ここでは、患者は一日中パジャマでベッドにいない。不必要な安静は、かえって回復を送らせてしまうので、なるべく日常生活に近づけている。 面会時間は朝の7時から夜の9時まで。入浴は毎日30分。食事の場所は病室でも病棟食堂でもよい。

リハビリ病棟の廊下は車椅子が往来できるように広いから、毎日、男性患者の溜まり場になっていた。 いくつものグループが朝昼晩の3回、廊下で賑やかにするのだ。

驚いていると「あんたは…どこが悪いの?」と、車椅子の男性に声をかけられた。「この時間はオムツ交換だよ。看護師は仕事だから気にしないけど、オムツの世話になるモンは堪らないよ。だから動けるモンはそっと廊下に出て、大きな声で騒ぐんだ。本人に気づかないフリしてさ。可哀想で見てられないよ」と、教えてくれた。

昔は、ケガや病気を治すのが医療でリハビリは医療ではない、と考えられたようだ。ところが今は患者のとらえ方が変わり、リハビリがクローズアップされてきた。

どこか具合が悪くなると療法士たちは、「こんな訓練をしたら無理なく体を動かせますよ」「痛みが走りませんよ」と教えてくれる。そして、家の中の危険箇所をチェックして家庭でも無理なく生活できるようにアドバイスをしてくれる。

言葉の問題があるときには言語聴覚士がいる。心理面で心配なら臨床心理士もいる。看護師は毎日の健康チェックや服薬の確認、患者を療法室に送迎したり必要に応じて日常生活の介助もする。 とにかくリハビリ科を受診すると、リハビリ医が患者にあった医療プランを立てるから療法士の指導を受けられる。

たった2週間だが、私は月曜から金曜まで週5日。療法時間は一日に全部で2時間まで。空いた時間は自主トレに励んだ。

病院のエレベーターを待つ間に発声練習。エレベーターの中でも歌を口ずさむ。洗面所の鏡の前では舌の体操をして、ノドの奥の軟口蓋を動かす。ベッドの上ではストレッチ体操。ベッドに腰かけて足の体操も。

まるでリハビリに取り憑かれた私を見て、同室の患者はアゼンとしていた。でも私は、リハビリの量に比例して症状は改善するものと信じて疑わなかった。

こうして2週間の入院はアッという間に終えた。