「ボク、あんなこと、しなければよかった…」と反省する私。
私は小学一年生。
私の好きな科目は、給食と休み時間と…体育…だけ。 その体育の時間でも私の体は勝手に動いて、先生の思い通りにならない。
それでも先生は私を褒めてくれる。 「お母さん、息子さんは即興でダンスをさせたらピカ一です!」と。
休み時間、大声をだしてハシャぐ私。いつものノリノリ状態。
前の席には、えっチャンが座っている。
ついに、前の席の長いおさげ髪をつまんで、ハサミでチョキン!バッサリ、切っちゃった。
クラス全員…立ち尽くす。
慌てて駆けつけた先生も、呆然。ナンテ言ったらイイのやら…
その夜。 先生からの電話で、母は『コトのテンマツ』を知る。
「サルカニ合戦の、カニになったの? マックス(絵本の主人公)になって大暴れしたの?」 と母は聞くが、
「ちがうよ。ボク…インディアンの子供になったの」と答える私。
なんと、マァ。インディアンの子供は、そんなイタズラしません!
私は、物語の中に飛び込むなんて朝メシ前だった。
ある日、「ちびくろサンボって、スゴイんだ!」と目を丸くして母に報告。
私は早速、ちびくろサンボに手紙を書いた。
『ちびくろサンボくん、
君はとても、強くて勇気があるね。だってトラと、そんなに近くでお話しても、恐がって逃げたりしないから。ボクだったら、きっと、恐くて逃げ出したよ。
前に、多摩動物園のライオンバスに乗った時、横から急にライオンが飛び掛かってきたんだ。とてもビックリしたよ。恐くて、バスを降りた後も、ふるえが止まらなかったんだ。
それから君は、どうしてそんなに、頭がいいの? トラに襲われたとき、洋服や靴をあげて命を助けてもらう事を、よく思いついたね。お父さんとお母さんが、せっかく用意してくれた洋服や靴をあげるのは、悔しかったでしょう?
でも、命をとられるよりは、まだマシだよね。 それに、あとで4匹のトラたちが、 「オレが、ジャングルで一番、立派なトラだ」 と言って大喧嘩をしているときに、取り返せてよかったね。
お話を読んでいて、3番目のトラに靴をあげたところでは、本当に心配したよ。 トラが「オレ様の足は4本。靴の数が足りないよ」 と言ったときには、もうダメかと思ったよ。よく、チエを働かせて、耳にはく、などということを思いついたね。驚いちゃった。
助かってホッとしたけれど、すぐに4番目のトラが出てきたときには、胸がドキドキしたよ。だって、カサしか残っていないことが分かっていたからね。 トラがカサをさせるわけがナイ、と思ったんだ。でも、本当に、ちびくろサンボは頭がいいね。 シッポに巻きつけるなんて、いい考えだよね。
もしも、もう1匹、トラが出てきたら、どうしたの? また、チエを働かせたかな? でも今度こそ本当に、なんにもナイよね。 だから5番目のトラが出てこないで、本当によかったね。スリル満点だったよ。
ボクは困ったことに出会ったとき、すぐ逃げ出したくなるんだ。 でも、ちびくろサンボは頭を使ってピンチを切り抜けるんだね。 ボクも、ちびくろサンボをみならって、これからは、色々とチエを働かそうと思うんだ。そして、逃げないでもすむときには逃げないようにしたいな。
最後に、トラがとけてバターになったところはちょっと、かわいそうだったね。 おいしそうなバターだったけれど、トラのシマシマ模様はどうしたのかな? バターの中に、とけていたのかな? でも、そうしたら、シマシマのホットケーキができるハズだね。 169枚も食べたなんて、すごいね。 安心して、おなかがすいたのかな? ボクの家のホットケーキも、フワフワでとってもおいしいよ。 とりかえっこして食べたいね。 でも、ボクは一枚でもおなか一杯だな。』
私のヨク動くクリクリ目玉は、でっかい夢と冒険で輝いていた。
子供は誰とでも、すぐに仲良くなれる。 たとえ、絵本の中の主人公であっても。
しかし、私が書いた手紙は、サンボには届かなかった。
当時、『ちびくろサンボ』の本は、黒人に対する偏ったイメージで作られている…と非難され、絶版になってしまったノダ。
ところが、2005年の4月。17年ぶりに復刊された。
原作者には、黒人への蔑視感はなかった、とか。 アメリカで使われている差別用語とは何の関係もなかった、という理由で…。 なんでもなかったからと、いつの間にか…。
簡単なことを難しくしてしまうのが大人。 だが、子供にも分かるように説明を…。 ごまかしは効かないのダカラ。
2005年、私の25回目の誕生日。 かつての腕白ボウズは、復刻版を手にした。
…ちびくろサンボ、おかえりなさい!!